医療機関の院内掲示物やポスター、パンフレットは、患者さんへの情報提供の一環として欠かせません。
しかし、医療広告ガイドラインでは「広告に該当する掲示」に対して厳しい制限が設けられており、知らず知らずのうちに違反してしまうケースも少なくありません。
本記事では、医療広告ガイドラインに沿った掲示物を作るために注意すべきNG表現と改善ポイントをわかりやすく解説します。
医療機関の信頼性を守りつつ、患者に伝わる院内掲示を整えたい方は、ぜひ参考にしてください。
なぜ院内掲示も「医療広告ガイドライン」の対象になるのか【背景と誤解】
原因1:院内掲示は「広告ではない」と思い込んでいる
多くの医療機関では、「院内での掲示物は広告ではない」と誤解されがちです。
しかし、厚生労働省の定義によれば、「患者の受診等を誘引する意図があるもの」は広告に該当します。
院内に掲示していても、待合室や受付周辺にあるポスターなどが新患・再診を促す内容を含む場合、広告とみなされる可能性があります。
つまり、「院内だから自由に表現できる」とは限らず、外部への情報発信と同様の慎重さが求められます。
原因2:医療法改正後のルールが十分に理解されていない
2018年の医療法改正以降、ホームページや院内掲示も「広告規制の対象」に明確に位置づけられました。
しかし、現場ではまだ「ホームページだけが対象」という認識が残っていることも多く、実際には院内掲示・折込チラシ・院内配布パンフレットなども規制対象となります。
特に「比較」「誇張」「体験談」などの表現は、広告違反に該当するリスクが高いとされています。
原因3:職員制作の掲示物がノーチェックで出ている
日常的な掲示物は、受付スタッフや看護師が作成することも多いでしょう。
しかし、内容の確認をせずに貼り出すと、意図せず法的リスクを生む可能性があります。
経営層や管理者がチェック体制を整える仕組みがないと、問題発生時に責任の所在が不明確になりやすいのです。
これらの誤解や運用ミスが、「知らないうちのガイドライン違反」を招きます。
では、どのような表現が実際に注意すべきNG例なのか、次の章で具体的に見ていきましょう。
医療広告ガイドラインでNGとなる表現【実例と理由】
方法1:効果を断定する表現
最も多い違反が、「効果・効能の断定的表現」です。
たとえば以下のようなフレーズはすべてNGです。
- 「必ず治ります」「確実に改善します」
- 「痛くない治療」「失敗しない手術」
- 「短期間で効果を実感」
医療行為には個人差があり、結果を保証することはできません。
代替表現として、「○○に対してこのような治療を行っています」と事実を伝える形にすると安全です。
方法2:他院との比較や優位性を示す表現
「地域No.1」「最先端」「他院にはない技術」など、他院と比較して優位性を訴える表現もガイドライン違反になります。
特に、「口コミ」「患者数」「症例数」などを使って優位性を示す場合は注意が必要です。
- NG:「当院は市内で最も多くの患者さんに選ばれています」
- OK:「○○に関する治療を行っています。お気軽にご相談ください」
比較表現は避け、「自院の取り組みを客観的に説明する」ことを意識しましょう。
方法3:体験談や口コミの掲載
患者さんの声や体験談は共感を生みやすい反面、広告規制の対象です。
院内掲示やHP上で紹介する場合は、「個別の結果を保証していない」「一般的な意見である」旨を明記する必要があります。
ただし、原則として個人の治療効果を示す事例や感想の掲示は避けることが望ましいです。
方法4:ビフォーアフター画像
美容医療などでよく見られる「施術前後の写真」も、広告ガイドラインでは原則禁止です。
医学的根拠を客観的に示せる場合を除き、結果を誤認させる可能性があるため使用できません。
許可される場合でも、適切な注釈・出典・条件の明記が必要です。
このように、表現次第で「伝えたいこと」が「誤認させる情報」として扱われてしまうことがあります。
次に、実際にどのように表現を整えれば安全に情報を伝えられるかを解説します。
ガイドライン対応で安全に情報を伝える方法【改善策】
方法1:事実に基づく客観的な説明にする
ガイドライン対応の基本は、「事実ベース」です。
施術内容・対応方針・診療体制などを具体的かつ中立的に記載しましょう。
- OK:「当院では○○に関する治療を行っています」
- OK:「専門資格を有する医師が在籍しています」
- NG:「最新技術で痛みゼロの治療!」
方法2:専門性や体制を具体的に伝える
「信頼」を伝えたい場合は、主観的表現ではなく、専門性の根拠を示すとよいでしょう。
- OK:「○○学会認定医が在籍しています」
- OK:「チーム医療体制での診療を実施しています」
- NG:「経験豊富なベテラン医師が担当します」
方法3:患者に行動を促す際は「お願い」の形にする
「ぜひ」「ご利用ください」などの誘引的な表現も注意が必要です。
行動を促す際は、協力依頼や案内のトーンに整えると安全です。
- OK:「ご不明な点はスタッフまでお声かけください」
- OK:「予約や受診方法についてのご案内はこちら」
- NG:「今すぐご予約を!」
表現を整えるだけで、患者に誤解を与えず、信頼感のある院内掲示に変えられます。
次の章では、今日からできる実践ステップを紹介します。
今日からできる実践ステップ【行動支援】
【初級】掲示内容のチェックリストを作る
- 効果を断定していないか?
- 比較・ランキング表現を使っていないか?
- 患者の体験談を掲載していないか?
- 広告ガイドラインに沿った内容か確認したか?
まずはこのチェックリストをもとに、現在掲示している内容を確認してみましょう。
【中級】職員間で共有ルールを作る
掲示を作成する職員が複数いる場合は、「掲示前チェックルール」を設けましょう。
1人の判断に任せず、複数人で内容を確認することでリスクを減らせます。
【上級】専門家による監修・サポートを受ける
重要な広報物や院内ポスターは、専門家や制作会社にチェックを依頼するのも有効です。
最新のガイドラインや判例に基づいて内容を整えることで、長期的に安全な運用ができます。
まずはできる範囲から整え、徐々に全体の掲示ルールへと広げていきましょう。
小さな改善の積み重ねが、患者との信頼構築につながります。
まとめ|医療広告ガイドラインに沿った安全な院内掲示を
- 「院内掲示も広告対象」であることを理解する
- 「効果・比較・体験談・ビフォーアフター」は避ける
- 事実と根拠に基づく中立的な表現に整える
- 職員間でルールを共有し、確認体制をつくる
院内掲示は、患者さんとの信頼を育む大切な「コミュニケーションツール」です。
法令に則りながらも、わかりやすく誠実な表現を心がけることで、安心して来院できる環境をつくることができます。